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IPCC 第6次評価報告書(AR6) WG1 まとめのまとめ

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)から、第6次評価報告書が公表されました。気候変動の調査報告で最も権威があり包括的な報告書でしょう。このポストではその要約であるSummary for Policymakers(SPM)からさらに重要な部分を日本語でまとめます。

IPCC AR6 Climate Change 2021:The Physical Science Basis

つい先日、IPCC 第 6 次評価報告書 (https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/) が公表されました。既にその強い懸念を示した評価報告内容に対する反応が各方面で見受けられますね。

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」は、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)により設立された組織である。

(参考:気象庁 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html)

大枠の構成としては下記の 3 グループからなっています。

  • 第 1 作業部会(WG1)- 自然科学的根拠
  • 第 2 作業部会(WG2)- 影響・適応・脆弱性
  • 第 3 作業部会(WG3)- 気候変動の緩和

今回公表されたのは WG1 の評価報告書になります。WG2 と 3、そして統合報告書は 2022 に公表予定となっています。今回で第 6 次となっていますが、概ね 5-7 年のサイクルで評価報告書が公表されています。

(参考:環境省 http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html)

こうした IPCC やその活動など全般については上記各省庁のウェブページに加え、日本語でまとめられた記事などが既にあるので下記など参考まで。

http://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge.html https://www.sbbit.jp/article/cont1/56384

また関連資料として、特別報告書の Global Warming of 1.5 ºC も参考まで。

https://www.ipcc.ch/sr15/

第 6 次評価報告報告書の本体は 4000 ページ弱にもわたる膨大な量なのですが、要点を手早く押さえたい人のために 40 ページ程度の Summary for Policymakers (SPM) という要約版も公表されていて、本記事ではまとめと翻訳を記載します。



まとめ(SPM)のまとめ

報告書全体で A-D の 4 部構成となっている。A. The Current State of the Climate (気候の現状)では大気中の温暖化効果ガス(GHG: greenhouse gas)濃度や気温、地表面温度、海洋温度、氷河の後退、降水量の変化が人類活動によって疑いなくかつ過去に類を見ない大きさで引き起こされていることを述べ、B. Possible Climate Futures (考えられる未来の気候)では GHG 排出シナリオに基づいた温暖化の進行やそれに伴う異常気象の増加の予測とその不可逆性が報告されている。C. Climate Information for Risk Assessment and Regional Adaptation(リスク評価と地域適応のための気候情報)では 1.5ºC や 2ºC など異なる温暖化の進行度における気象的な影響の予測がリスク評価・適応の観点で述べられ、D. Limiting Future Climate Change (未来の気候変動の抑制)では CO2 排出量と蓄積に対する地表面温度上昇などの気候応答の関係から、地球規模で CO2 排出実質ゼロを実現する重要性が訴えられている。


A. 気候の現状

大気中の GHG 濃度は 1750 年頃から間違いなく人類の活動によって上昇し続け、2019 年で二酸化炭素(CO2)濃度は 410 ppm、メタン(CH4)濃度は 1866 ppb、亜酸化窒素(N2O)濃度は 332 ppb に達した(A.1)。過去 40 年で気温は上昇し続け(Figure SPM.1)、人為的な地表面温度の上昇は 1.07 ºC(0.8-1.3 ºC)と推定され、GHG は 1.0-2.0 ºC の温暖化に寄与しているとみられる(Figure SPM.2)。降水量の世界平均は上昇かつ加速しており、人類活動は世界的な氷河の後退や海面温暖化の主要因となり、海面水位は 1901-2018 年の間に平均で 0.20 m 加速しながら増加している。これらは過去何千・何万年にかけて類を見ない大きさの変化であり(A.2)、既に熱波・豪雨・干ばつ・熱帯サイクロンなどの異常気象・気候に現れ始めている(A.3, Figure SPM.3)。気候感度(Equilibrium climate sensitivity)という放射強制力(Radiative forcing)に対する気候の応答と温度変化で表した指標があり、第 5 次評価報告書時より不確実性を狭め、 3ºC と推定された(A.4)。


B. 考えられる未来の気候

5つの GHG 排出シナリオは共有社会経済パスSSP: Shared Socio-economic Pathwayというもので表現され、それぞれシナリオにおける社会経済的トレンド(x)と放射強制力(y, radiateve forcing 単位は W m-2)を示している(Box SPM.1)。地表面温度はどの排出シナリオにおいても少なくとも 2050 年頃まで上がり続け、数十年のうちに CO2 や GHG 排出量の大幅な削減を実現しない限り、地球温暖化は 1.5 ºC や 2 ºC の水準を超えるだろう(B.1, Figure SPM.4)。長期予測平均における地表面温度の上昇は、CO2 排出量が実質マイナスとなる極低排出シナリオ(SSP1-1.9)で 1.0-1.8 ºC、2050 年まで現在の水準を維持する中排出シナリオ(SSP2-4.5)で 2.1-3.5 ºC、2050 年に現在の二倍程度の CO2 排出となる極高排出シナリオ(SSP5-8.5)の場合 3.3-5.7 ºC と見込まれる(Table SPM.1)。地球温暖化の進行は気候システムの多くの変化の増大に直結し、0.5 ºC の地球温暖化によって一部の地域における猛暑、海洋熱波、豪雨、農業・生態学的干ばつの頻度と激しさの明確な上昇を引き起こす(B.2, Figure SPM.5 & 6)。地球の水循環は地球温暖化の進行によって増強するとされ、その変動やモンスーン降水量、乾燥と湿潤の激しさが増幅し、長期平均における世界の平均年間降水量は極低排出シナリオ(SSP1-1.9)で 0–5%、 中排出シナリオ(SSP2-4.5)で 1.5-8%、極高排出シナリオ(SSP5-8.5)で 1–13%、増加すると予測されている(B.3, Figure SPM.5)。海洋と土地における炭素吸収は、CO2 排出の増加するシナリオにおいて絶対量は徐々に増加するものの、累積の CO2 排出増加に対する吸収量の割合は減少するため、あまり効果的でないと予測される(B.4, Figure SPM.7)。過去の GHG 排出は既に未来の海洋温暖化に寄与し、21 世紀に渡って海洋成層や酸性化・脱酸素化が増加すると見込まれ、氷河の数十年から数世紀に及ぶ融解、永久凍土の融解に伴う炭素の放出は数百年単位で不可逆である(B.5 Figure SPM.8)。海面は継続的な深海の温暖化と氷床の融解によって数世紀から数千年に渡り上昇し続け、今後 2000 年で 1.5 ºC の温暖化において 2-3 m、2 ºC で 2-6 m、5 ºC で 19-22 m に及ぶ可能性がある。


C. リスク評価と地域適応のための気候情報

人類の影響が無くても生じる気候の変動域を自然変動(natural variability)といい、それは内部変動(internal variability)と極端な自然要因(火山噴火や太陽活動、地球軌道の影響やプレートテクトニクスなど)を組み合わせたものである。社会や生態系に影響する物理的気候システム条件(各種の平均やイベント、異常気象など)を気候影響要因(CIDs: climatic impact-drivers)と呼び、予測された気候影響要因の人為的変化は内部変動によって拡大あるいは減衰する(C.1)。気候影響要因について、すべての地域は高温要因の更なる増加と低温要因の減少に直面し、永久凍土・氷雪・氷河・氷床・北極海の氷は更に減少、また多くの地域で豪雨とそれに伴う洪水がより激しく高頻度になると予測され、これらの変化は 1.5ºC と比べ 2ºC の地球温暖化によって拡大する (C.2, Figure SPM.9)。氷床崩壊、突発的海洋循環変化、いくつかの異常気象の併発、などの低確率の事象もリスク評価から除外することはできず、各 GHG 排出シナリオにおける高確率と評価された温暖化予測を上回る温暖化が生じた場合、地球規模・地域的な気候システムの多くの側面の変化もまた高確率と評価された範囲を上回るだろう(C.3)。


D. 気候変動の制限

1000Gt 毎の CO2 排出が累積されるごとに 0.45ºC (0.27-0.63ºC)の地表面温度上昇につながるという、直線的な累積 CO2 排出に対する一時的な気候応答(TCRE: transient climate response to cumulative CO2 emissions)が再確認された(D.1, Figure SPM.10)。人為的な CO2 除去(CDR: CO2 removal)により人為的 CO2 排出を補いつつ、地球規模の CO2 排出実質ゼロを実現することは CO2 由来の地表面温度上昇を留めるのに不可欠で、地球の温度上昇を制限するには累積 CO2 排出を炭素収支(carbon budget)範囲内に収めなければならない。COVID-19 と関連しての人類活動の変化が大気質の一時的な改善をもたらした一方、CO2 濃度は以前上昇し続け、低排出シナリオの実現が不可欠である(D.2)。低排出シナリオは高排出シナリオと比べれば地表面温度などに短期で変化が表れ始めるが、その他多くの気候影響要因では中長期で自然変動と差別可能な違いが現れる。



さて、以上がまとめのまとめで、その過程での SPM の日本語訳も以下に記載しておきます。

注意点として、各節の本文訳に関しては少しかいつまんでまとめたりもしていて文の区切りも異なっています。また実際の報告書には全体としてthe IPCC calibrated languageという、各報告における確からしさを表現する基準に基づいて記述されているのですが、この記事においては一対一対応で訳せていません。訳の質に加えてこうした改変が入ってしまっているので、正確な表現についてはやはり原著をあたってください。

…と、大部分を訳してから気づきましたが経産省から各節の見出しの文言の暫定役や主な評価の一覧が出されていました。8 月下旬には気象庁ウェブサイトにて日本政府公式の日本語訳が出されるそうです。

https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210809001/20210809001.html

それでも翻訳していく中で概念の理解が深まったりもしたので後悔はありません。本当はこの理解を踏まえて個人的な見解や考察もまとめていきたかったところですが、既に長大でこれ以上時間かけるのも厳しかったのでまたの機会に回します。

以降の翻訳は参考までに。




A. 気候の現状 (The Current State of the Climate)

第五次評価報告書以降、観測に基づく推定や古気候学空の情報の向上により気候システムの各構成要素とその変化に対する包括的な見解が得られた。新たな気候モデル・分析・複数の証拠を組み合わせる手法によって、極端な気候・気象を含むより広範な気候変数に対する人類の影響力の理解が深まった。


A.1 温暖化が人為的に引き起こされていることは疑いなく、広範で高速な変化が大気・海洋・雪氷・生物圏において生じている。

GHG 濃度は 1750 年頃から間違いなく人類の活動によって上昇し、2011 年以降も増加し続けている。2019 年で二酸化炭素(CO2)濃度は 410 ppm、メタン(CH4)濃度は 1866 ppb、亜酸化窒素(N2O)濃度は 332 ppb に達した。

過去 40 年で気温は上昇し続け、人為的な地表面温度の 1850-1900 年から 2010-2019 年の間での上昇は 1.07 ºC(0.8-1.3 ºC)と推定され、GHG は 1.0-2.0 ºC の温暖化に寄与しているとみられる(Figure SPM.2)。

降水量の世界平均は 1950 年から上昇し、1980 年代以降加速しているとみられる。人類の活動が世界的な 1990 年代以降の氷河の後退や 1970 年代以降海面付近(0-700 m)の温暖化の主要因である可能性が高い。世界的に海面は 1901-2018 年の間に平均で 0.20 m 増加し、上昇は加速している。

温暖化によって生物圏にも変化があり、気候区域が極方向に推移し生育期間は平均で二日ほど伸びた。他にも、人類の活動が成層圏のオゾン層破壊、海面付近の塩分濃度、海洋酸性化などへ寄与していると報告されている。


A.2 気象システム全体における近年の変化の規模とその多くの要素の現状は過去何世紀・何千年にかけても類を見ないものである。

2019 年、大気の CO2 濃度は少なくとも過去 200 万年において、CH4 と N2O の濃度は過去 80 万年において最高であった。世界的な地表面温度の 1970 年以降の上昇は少なくとも過去 2000 年間のどの 50 年間よりも最速であった(Figure SPM.1)。

北極海の氷面積は 2011-2020 年にかけて少なくとも 1850 年以降で最低であった。世界の平均海面は 1900 年以降において、過去 3000 年のどの世紀よりも最速で上昇した。


A.3 人為的な気候変動は既に世界中のあらゆる地域で多くの極端な気象・気候に影響を及ぼしている。熱波・豪雨・干ばつ・熱帯サイクロンにおける実測された変化やそれらに対する人類の影響の証拠は第 5 次評価報告書時点よりも強まった。

熱波などの極端な暑さや豪雨は 1950 年以降多くの地域でより高頻度かつ激しいものとなった一方で、寒波などの極端な寒さ頻度と激しさともに減少した。人為的な気候変動がこれらの変化の主要因であると見られている(Figure SPM.3)。

世界的なモンスーンの降雨量は北半球でのエアロゾル排出によって 1950 年代から 80 年代にかけて減少したものの、それ以降は GHG 濃度の上昇によって増加した。熱帯サイクロンの発生の割合は過去 40 年にかけて上昇したとみられ、もっとも強大となる北西太平洋における緯度は北上した。

これらの極端な気候が併発する可能性が人類の活動によって 1950 年代以降高まっている。


A.4 気候プロセス・古気候学的証拠・放射強制力の増加に対する気候システムの応答への知見向上により、気候感度は 3 ºC と推定され、第 5 次評価報告時よりも範囲を狭めた。

人為的な放射強制力は 2019 年において 1750 年と比較して 2.72(1.96-3.48) W m–2 であり、主に GHG 濃度の増加を通じて気候システムにエネルギーを蓄積し温暖化した。

海洋温暖化が気候システムの温暖化の 91%を占める。気候システムの温暖化は地上の氷の損失と海洋の膨張を通じて海面上昇を引き起こす。

気候感度は気候の放射強制力への応答を推定する重要な指標であり、この第 6 次報告書では 3 ºC(2.5-4.0 ºC)と推定され、第 5 次報告書(1.5-4.5 ºC)よりも不確実性を狭めた。


B. 考えられる未来の気候 (Possible Climate Futures)

5 つの排出シナリオに基づいて未来の広範な GHG、土地利用・大気汚染物質への気候応答を検証する。気候モデルによる気候システムの変化の予想はこれらのシナリオに基づいていて、太陽活動や火山活動の影響を考慮し、1850-1900 年と比較しての短期(2021-2040)・中期(2041-2060)・長期(2081-2100)での結果を提供する。


Box SPM.1: シナリオ、気候モデル、そして予測

この報告書は下記の 5 つのシナリオによって、気候変動を引き起こす人為的要因の未来の想定されうる水準を踏まえ、気候応答を評価している (Figure SPM.4) 。

  • SSP5-8.5: GHG 排出量が非常に多く、CO2 排出量が 2050 年までに現在の約二倍に達する。
  • SSP3-7.0: GHG 排出量が多く、CO2 排出量が 2100 年までに現在の約二倍に達する。
  • SSP2-4.5: GHG 排出量が中程度で、CO2 排出量が 2050 年まで現在と同程度である。
  • SSP1-2.6: GHG 排出量が少なく、CO2 排出量が 2050 年頃に実質ゼロとなる。
  • SSP1-1.9: GHG 排出量が非常に少なく、CO2 排出量が実質マイナスとなる。

この SSPx-y という表記は共有社会経済パスSSP: Shared Socio-economic Pathwayというもので、それぞれシナリオにおける社会経済的トレンド(x)と放射強制力(y, 単位は W m-2)を示している。

この報告書の評価は世界気候研究プログラム(the World Climate Research Programme)の Coupled Model Intercomparison Project Phase 6 (CMIP6)に参画する気候モデルの結果に基づいている。これらのモデルはこれまでの IPCC の報告書時よりも物理・科学・生物学的過程の新しくより正しい記述とより高い解像度を有し、多くの大規模指標の近年の平均値や気候システムのあらゆる面でのシミュレーションを改善した。CMIP6 のモデルはより広範な気候感度を検討しつつ不確実性を狭めた。地表面温度、海洋温暖化と海面水位の未来の変化は、IPCC の報告書で始めて、観測された制約や気候感度評価を踏まえた複数のモデルの予測によって評価された。


B.1 地表面温度はどの排出シナリオにおいても少なくとも 2050 年頃まで上がり続け、数十年のうちに CO2 や GHG 排出量の大幅な削減を実現しない限り、地球温暖化は 1.5 ºC や 2 ºC の水準を超えるだろう。

地表面温度は、長期予測平均において非常に低い(SSP1-1.9)排出シナリオで 1.0-1.8 ºC、中程度(SSP2-4.5)で 2.1-3.5 ºC、非常に高い(SSP5-8.5)場合 3.3-5.7 ºC の上昇と見込まれる(Table SPM.1)。

21 世紀中に地球温暖化が 2 ºC を超える可能性は、高排出シナリオ(SSP5-8.5 & 3-7.0)ではほぼ確実で、中排出(SSP2-4.5)でも非常に高く、低排出(SSP1-2.6 & 1-1.9)であれば低いあるいは非常に低いだろう。中から高排出シナリオでは 1.5 ºC を超えると予測され、高排出シナリオ(SSP5-8.5)では短期予測においても 1.5 ºC を超える可能性が高いと見られる。

地表面温度は自然変動が大きく、特定の一年においては長期の人為的なトレンドを上回るあるいは下回ることがある。


B.2 地球温暖化の進行は気候システムの多くの変化(一部の地域における猛暑、海洋熱波、豪雨、農業・生態学的干ばつの頻度と激しさの上昇、強力な熱帯サイクロンの割合の増加、北極海の氷面積・積雪・永久凍土の減少)の増大に直結している。

海面以上に地表面の温度が上昇し続けること(恐らく 1.4-1.7 倍)、世界の地表面以上に北極が温暖化すること(地球温暖化の約 2 倍)はほぼ確実である(Figure SPM.5)。地球温暖化の進行の一歩一歩により気候はより極端になっている。0.5 ºC の地球温暖化によって一部の地域における猛暑、海洋熱波、豪雨、農業・生態学的干ばつの頻度と激しさの明確な上昇を引き起こす(Figure SPM.6)。一部の中緯度・半乾燥地域や南米モンスーン地域は猛暑日の気温が最も上昇する(地球温暖化の 1.5-2 倍程)と予測されている。豪雨は温暖化によりほとんどの地域でより激しく高頻度になっていて、世界的には 1 ºC の温暖化で豪雨における一日の降水量は約 7%上昇するとみられる。


B.3 地球の水循環は地球温暖化の進行によって激しさを増すとされ、その変動やモンスーン降水量、乾燥と湿潤の激しさが増幅する。

地球の水循環は気温上昇に伴い増強し続けるという証拠が強まっており、降水量と表流水は多くの地域で季節・経年の変動がより大きくなると予測されている。

世界の平均年間降水量は 1995-2014 年と比べて 2081–2100 において低排出シナリオ(SSP1-1.9)で 0–5%、 中排出シナリオ(SSP2-4.5)で 1.5-8%、高排出シナリオ(SSP5-8.5)で 1–13%、増加すると予測されている。地域別では、中から高排出シナリオにおける降水量は高緯度地域・赤道太平洋と一部のモンスーン地域で増加、亜熱帯の一部やその他限定的な地域では減少すると予測されている。

温暖な気候は非常に湿度の高いあるいは非常に乾燥した気象をより強め、洪水や干ばつに繋がる一方で、これらの災害の場所や頻度はモンスーンや中緯度の低気圧経路などの大気循環の変化に左右される。エルニーニョ現象に伴う降雨の変動は中から高排出シナリオにおいて 21 世紀後半までに増幅すると予測されている。モンスーン降雨は中期・長期的に地球規模、特に南・東南・東アジア、極西サハラ地域を除く西アフリカにおいて増加するとみられる。南半球の夏季中緯度低気圧経路とそれに伴う降水の南下と増大は高排出シナリオにおいて長期的に生じると予測される一方で、短期的には成層圏のオゾン層回復によって変化が打ち消される。


B.4 CO2 排出の増加するシナリオにおいて、海洋と土地における炭素吸収は大気中の CO2 蓄積を遅らせるのに効果が薄いと予測される。

海洋と土地における炭素吸収は、低排出シナリオと比べ高排出シナリオにおいて絶対量は徐々に増加するものの、増加する累積の CO2 排出に対する吸収量の割合は減少するため、あまり効果的でないと予測される(Figure SPM.7)。大気中の CO2 濃度を現在の水準に留める中排出シナリオにおいて、海洋と土地による CO2 の吸収率は 21 世紀後半に減少すると見込まれる。低排出シナリオでは大気中 CO2 濃度の減少に伴い吸収量も減少し、非常に低い排出シナリオ(SSP1-1.9)では 2100 年までには微弱な発生源に転じるとされる。気候変動と炭素循環の間の相互作用の度合いは高排出シナリオにおいてより高くより不確実になるが、2100 年までの大気中 CO2 濃度の不確実性は排出シナリオの違いに大きく依存する。


B.5 過去と未来の GHG 排出による多くの変化、特に海洋・氷床・海面水位の変化は数百年から数千年にわたって不可逆なものである。

1750 年以降の過去の GHG 排出は既に未来の海洋温暖化に寄与している(Figure SPM.8)。残りの 21 世紀にかけて、1971-2018 年の変化と比べ 2-4 倍(低排出シナリオ)から 4-8 倍(高排出シナリオ)の海洋温暖化が進み、海洋成層や酸性化、脱酸素化が増加すると見込まれる。

山岳や極地の氷河は数十年から数世紀に渡って溶け続け、永久凍土の融解に伴う炭素の放出は数百年単位で不可逆である。

地球の平均海面水位が 21 世紀に渡って上昇し続けることはほぼ確実で、1994-2014 年と比べ 2100 年には 0.25-0.55 m (SSP1-1.9), 0.32-0.62 m (SSP1-2.6), 0.44-0.76 m (SSP2-4.5), 0.63-1.01 m (SSP5-8.5)上昇するだろうと予測されている。

より長期においては、海面は継続的な深海の温暖化と氷床の融解によって数世紀から数千年に渡り上昇し続け、数千年もの間上昇した水位を維持するだろう。今後 2000 年での世界の平均海面の上昇は、1.5 ºC の温暖化において 2-3 m、2 ºC の温暖化において 2-6 m、5 ºC の温暖化において 19-22 m に及びその後の数千年においても上昇し続ける可能性がある。


C. リスク評価と地域適応のための気候情報 (Climate Information for Risk Assessment and Regional Adaptation)

物理的気候情報は気候システムの人為的要因・自然要因・内部変動に対する相互的な応答の解明に貢献し、気候応答と様々な起こり得る結果の知見は気候関連リスク評価や適応計画などの気候サービスに応用できる。


C.1 自然要因や内部変動は、特に地域規模や短期においては人為的変化に影響するが、数世紀に渡る地球温暖化に対してはあまり効果がない。これらの影響力は想定しうるあらゆる可能性に備えるためには重要な要因である。

過去の表面温度の記録は、十年単位の変動が拡大し人為的な長期変化に重なっていて、この変動は将来的にも継続することを示す。平均気候や気候影響要因(CIDs: climatic impact-drivers)への予測された人為的変化は内部変動によって拡大あるいは減衰する。内部変動は十年から数十年での平均降水量の多くの地域で観測された人為的な変化の拡大あるいは減衰を説明できる。古気候学や歴史的証拠に基づくと、爆発的な火山噴火が 21 世紀中に少なくとも一つ生じるだろう。そうした噴火によって地表面温度と降水量は 1-3 年間減少し、地球規模のモンスーン循環や極端な降雨、多くの気候影響要因を変化させる。


C.2 地球温暖化の進行によって、すべての地域は気候影響要因の複数の並行した変化をこれまで以上に直面すると予測されている。いくつかの気候影響要因の変化は 1.5ºC と比べ 2ºC の温暖化によって一層広範囲に渡り、より高温な温暖化においては更に広範かつ拡大し得る。

すべての地域は高温気候影響要因の更なる増加と低温気候影響要因の減少に直面し、永久凍土・氷雪・氷河・氷床・北極海の氷は更に減少すると予測され、これらの変化は 1.5ºC と比べ 2ºC の地球温暖化によって拡大する (Figure SPM.9)。

1.5ºC の温暖化においては豪雨とそれに伴う洪水がアフリカ、アジア、北アメリカとヨーロッパの多くの地域でより激しく高頻度になると予測されている。更に、より頻繁で激しい農業・生態学的干ばつがアジア以外の全大陸の一部の地域で予測され、気象学的干ばつの増加も一部見込まれる。ごく一部の地域では平均降水量の増加あるいは減少が予測されている。2ºC 以上の温暖化においては 1.5ºC と比べて、干ばつ、豪雨、平均降水量の変化の度合いと確からしさが上昇、より広範の地域においてより多くの気候影響要因が変化すると見込まれている。

地域的な平均相対的海面上昇が 21 世紀に渡って続くことは、ごく一部の地学的土地上昇率の非常に高い地域を除いて、ほぼ確かである。約 2/3 の地球上の海岸線は世界平均の ±20%の相対的海面上昇が見込まれている。

都市部は人為的な温暖化を局所的に増強し、更なる都市化とより高頻度の猛暑は熱波の激しさを増すことになる。都市化は都市部とその風下における平均と豪雨時の降水量、それによる表流水の激しさを増す。沿岸都市においてはより高頻度な海面上昇と降雨・河川流水の急増の組み合わせにより洪水の可能性が上昇する。

多くの地域においては温暖化の進行によって併発の可能性が上昇し、特に並行した熱波と灌漑はより高頻度になると見込まれる。並行した極端な気候は、作物生産地域お含む複数の地域において、1.5ºC と比べ 2ºC の地球温暖化によってより高頻度になる。


C.3 氷床崩壊、突発的海洋循環変化、いくつかの異常気象の併発、高確率と評価された温暖化予測を大幅に上回る温暖化、などの低確率の事象もリスク評価から除外することはできない。

各 GHG 排出シナリオにおける高確率と評価された温暖化予測を上回る温暖化が生じた場合、地球規模・地域的な気候システムの多くの側面の変化もまた高確率と評価された範囲を上回るだろう。特に高排出シナリオにおいて、低確率とされるより深刻な地球温暖化は、より激しく高頻度な熱波や豪雨による甚大な影響の可能性や生態系や人類にとっての高いリスクに繋がる。

低確率だが高い影響力のある結果がある排出シナリオにおいて高確率とされる温暖化の範囲内においても地球規模・地域的に起こり得る。温暖化の進行によって、これまで低確率であったいくつかの異常気象の併発がより高頻度になり、観測記録にない高強度・長期間・広範囲の異常気象の生じる確率が上昇する。

大西洋南北熱塩循環はどの排出シナリオにおいても 21 世紀にかけて弱まると見込まれるが、その程度は定かでない。2100 までに突然崩壊することはないと見込まれるが、もし発生した場合、熱帯雨ベルトの南下やアフリカ・アジアモンスーンの減衰、南半球モンスーンの増幅、ヨーロッパの乾燥など地域的な気象のパターンとサイクルに突発的な以降が生じうる。

連続的な爆発的火山噴火など、人為的影響とは無関係な予測不能で稀な自然現象が低確率で影響力の大きな結果につながる可能性もある。


D. 未来の気候変動の抑制 (Limiting Future Climate Change)

第五次報告書以降、SR1.5 で提示された新しい手法や更新された証拠、複数の証拠の統合などによって、炭素収支の推定は向上した。包括的な範囲に渡って各シナリオで考え得る未来の大気汚染の制御が気候と大気汚染の予測における様々な仮定の効果を一貫して評価するために使われた。排出量削減に対する気候応答が、内部変動や自然要因への応答などによる変動以上の識別可能な水準に達しているかを確かめる方法が新たに開発された。


D.1 物理学的観点から、人為的な温暖化を一定の水準まで制限するには、累積 CO2 排出量の制限、少なくとも実質ゼロ CO2 排出には到達しかつその他の GHG 排出量に大幅な削減が必要である。大幅で迅速かつ持続的な CH4 排出の削減はエアロゾル汚染の減少による温暖化効果を制限するとともに大気質の改善につながるだろう。

この報告書では、累積の人為的 CO2 排出と地球温暖化との間のほぼ直線的な関係を見出した AR5 の報告を高い確実性で再確認した。1000Gt 毎の CO2 排出が累積されるごとに 0.45ºC (0.27-0.63ºC)の地表面温度上昇につながると推定される (Figure SPM.10)。この量は累積 CO2 排出に対する一時的な気候応答(TCRE: transient climate response to cumulative CO2 emissions)と呼ばれ、どの段階においても人為的な温暖化の進行を食い止めるには人類由来の CO2 排出量を実質ゼロに留めなくてはならず、地球の温度上昇を制限するには累積 CO2 排出を炭素収支範囲内に収めなければならないことを意味する。

1850–2019 年にかけて、合計で 2390 ± 240 GtCO2 もの人為的 CO2 が排出された。TCRE の推定値と不確実性、過去の温暖化の推定、CO2 以外の排出による温暖化予測の変動、永久凍土の融解や人為的 CO2 の実質ゼロ排出後の地表面温度変化などの気候システムのフィードバックを基に、各温暖化の進行具合とその可能性の組み合わせについて、残存炭素収支が推定された(Table SPM.2)。

残存炭素収支の推定を左右するいくつかの要因は SR1.5 以降再評価され更新された。人為的な炭素除去(CDR: CO2 removal)は大気中から CO2 を取り除き長期に貯蔵しておくことで、実質ゼロの CO2 あるいは GHG 排出量を達成するために残余の排出を補う、あるいは人類由来の排出量を上回る規模で除去できるようになれば表面温度の低下を狙う。人為的な炭素除去は実質マイナスの排出によって大気中の CO2 濃度を引き下げ、海表水酸性化を回復し得る。

実質マイナスの CO2 排出が実現・持続された場合、CO2 由来の地表面温度上昇は徐々に反転していく一方で、海面水位などその他の気候変動は数十年から千年にわたって現在の方向に継続する可能性がある。

5 つの排出シナリオにおいて、CH4・エアロゾル・オゾン前駆体排出の同時変化は短期から長期にかけて大気汚染に加担し地表面温度上昇に繋がる。

人為的な CO2 除去により人為的 CO2 排出を補いつつ、地球規模の CO2 排出実質ゼロを実現することは CO2 由来の地表面温度上昇を留めるのに不可欠である。これは GHG 排出を実質ゼロにすることとは異なる。ある GHG 排出経路において個別の GHG の経路によって気候応答は左右され、GHG 統合に用いる排出の計量と異なる GHG の除去の選択はどの時点で統合された GHG が実質ゼロになるかに影響する。100 年にかけての地球温暖化係数(GWP:global warming potential)で定義された実質ゼロの GHG 排出を実現し維持する排出経路においては地表面温度が早期にピークを迎えその後減少すると予測される。


D.2 低排出シナリオ(SSP1-1.9 & 1-2.6)は GHG とエアロゾル濃度及び大気質に高排出シナリオ(SSP3-7.0 & 5-8.5)と比べて識別可能な変化を数年以内にもたらす。これらの対照的なシナリオにおいて、地表面温度の傾向における識別可能な違いは約 20 年以内に自然変動から乖離し始め、より長期においてはその他多くの気候影響要因に違いがが見られ始める。

COVID-19 の拡散を抑える措置に伴う排出量の減少は一時的だが識別可能な効果を大気汚染に与え、そして人類活動からのエアロゾル排出による冷却効果の減少によって一時的に小さな放射強制力の上昇が見られた。この一時的な強制力に対する地球規模・地域的な気候応答は自然変動以上にはいまだ観測されていない。大気中 CO2 濃度は 2020 年にも上昇し続け、観測された CO2 増加率に識別可能な減少は見られていない。

GHG 排出の減少は大気質改善にも繋がったが、短期的には大幅な GHG 削減を実現する低排出シナリオ(SSP1-1.9 & 1-2.6)においても、これらの改善では多くの汚染地域では WHO のガイドラインに定められた大気質を満たさない。大気汚染物質排出削減を目標とするシナリオでは GHG 排出削減のみと比べて数年以内により速い大気質の改善をもたらし、大気汚染部室と GHG 排出両方を削減するシナリオにおいては 2040 年以降の大気質の更なる改善が予測される。

低排出シナリオ(SSP1-1.9 & 1-2.6)は、高排出シナリオ(SSP3-7.0 & 5-8.5)と比べて、人為的気候変動を制限する迅速かつ持続的な効果があるが、短期の気候応答は自然変動に隠れ得る。地表面温度は極低排出シナリオ(SSP1-1.9)では短期で 20 年単位の傾向に違いが現れ始めるだろう。その他多くの気候変数の応答は 21 世紀後半に異なる時点で自然変動から識別可能なものとなるだろう。低排出シナリオ(SSP1-1.9 & 1-2.6)では、高排出シナリオ(SSP3-7.0 & 5-8.5)と比べて、2040 年以降多くの気候影響要因の変化は非常に小さく、今世紀の終わりには複数の気候変動要因の変化を強く制限するだろう。